本プロジェクトの受賞作品には、アートフェアでの展示販売と仮囲いへの掲出というふたつの発表の場が供される。そのため審査では異なる評価基準を並列させる必要があり非常に苦慮したが、そのいっぽうで選ばれた作品はどれも、(表面的な発表の場に囚われない)根幹的な作品の強さと何より福岡への愛着を感じさせるものとなった。
先達を振り返ろう。1950〜60 年代に前衛芸術グループとして活動した九州派は、福岡県庁の外壁で展示を行ったのが結成のきっかけとなっており、以降、知られるよう にその熱量で美術界を挑発し続けた。いまでこそ全国的に開催されている都市型芸術祭だが、福岡で1990 年代を中心に展開された「ミュージアム・シティ・プロジェクト」は都市の活性化にアートを取り入れた試みとしてかなり最初期のものだった。
2021 年、ニューノーマルが謳われ文化芸術のあり方もまた問われている時期に「Fukuoka Wall Art Project」が企画されたことは、こうした先人を踏まえると新たな都市と芸術のあり方を模索する試みとなっていくことを期待させる。香港が政治を背景に表現活動の場として困難になりつつあるいま、アジア文化の交差点として多様性を受け入れ熱く楽しむ県民性を持つ福岡は、(グローバル都市の東京や大阪とはま たちがう)重要な 発着場 となる可能性を秘めている。変化をポジティブに捉え、福岡を元気づけようと表出した作品たちを見て、そんな期待を再確認した。
抽象的なタッチによって多様な解釈や感情をおおらかに受け止める作品。コロナ禍で消えてしまった街灯を顧み、再び博多の夜が活気にあふれることを祈る。
表情豊かなマチエールによって抽象度と力強さを兼ね備えた、多くの人に実物を鑑賞してもらいたい作品。九州派の系譜も感じさせ、本プロジェクトでどのようにまちに受け入れられるかも期待される。
キャッチーで軽やかな作風でありながら、一つひとつ丁寧に福岡の魅力が描かれた作品。日本人からアジア人、宇宙人や動物と、福岡が包摂する多様性を非人間にまで拡張しようとするスケールの大きさも感じさせる。
中国に端を発する山水画を日本の漫画表現を引用しながらデジタルの如く平面化した、多彩な表現技法をスムースに消化した作品。仮囲いに大型出力されることで再び奥行きを取り戻すとき、どのように見えるかが楽しみだ。
色彩と輪郭線の非リンクによって、分人として複雑に生きる人間を表現している。天神ビッグバンで仮囲いに覆われる福岡もまたその機能と輪郭線を再構築しようとしており、本作が壁面に掲出されることによって、まちの可能性を問い直すだろう。
チーフディレクター 田尾圭一郎
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